溺愛御曹司に囚われて
* * *
高瀬と私が高校三年生だった頃、私は一ノ瀬先生と秘密の恋の真っ只中だった。
初めての恋を捧げた私を、先生は優しく受け止めてくれていた。
私が先生にどれだけ本気なのかを知っていたから、彼は自分の教師という立場を理由に私を拒もうとはしなかった。
『俺たち、バレたらふたりとも学校辞めなきゃだぞ』
そんなふうに、笑いながら煙草を燻らせる先生が好きだった。
『いいの。私、先生と一緒にいるためなら学校なんていつでも辞められる。でも先生がクビになっちゃうのは困るから、バレそうになったら私が先に退学するの。それなら誰も文句は言わないでしょ?』
先生はそれを冗談だと思っていたのかもしれないけど、このときの私は本気だった。
本気で、先生と一緒にいるためなら、学校なんていつでも辞められると思っていた。
だけど次第に周囲が私たちの関係を怪しむようになって、ふたりで会える回数もどんどん減った。
最初に私たちの関係を見抜いたのは同級生だった高瀬だけど、彼は私たちのことを誰にも言わず黙っていてくれた。
『だって、言ったらお前学校辞めんだろ。俺、一ノ瀬とは別れちまえって思ってるけど、お前が学校辞めればいいとは思ってない。だから辞めんなよ』
それが高瀬の言い分だった。
高瀬は一ノ瀬先生のいる数学科教室に通う私についてきて、放課後は一緒に勉強を教わったりもしていたっけ。
それでも実際にそのまま付き合っていくことが難しくなってくると、私は決断をしなくてはならなくなった。
ふたりの思いは真剣なのに、教師と生徒だからという理由でその気持ちに堂々と胸を張れないことが、なによりも悲しかった。
先生が教師で、私が生徒という枠の中にいる限り、この恋が幸せに実ることは決してない。
悩んで、苦しんで、そのことがようやくわかるようになった。
私は大好きな先生と、幸せになりたい。
他の恋人たちがそうしているように。