溺愛御曹司に囚われて
ゴニョゴニョと語尾を濁す私に、高瀬があきれたような顔で深く盛大にため息をつく。
勝手に探るような真似して、イヤな女だって思っただろうか。
「言いたいことは山ほどあるが……」
高瀬はそう言いながらソファに座る私の前にしゃがみ込んで、膝の上でギュッと握りしめていた私の両手をそっと包み込んだ。
小さな子どもに言い聞かせるみたいに、私の顔を覗き込んでふっと表情を緩める。
「まず、俺の腕の届かない範囲であまり危ない目に遭わないで欲しい」
高瀬が眉をハの字にして、懇願するようにそっと告げた。
「偶然あいつが見つけたからよかったものの、もしその男の部屋に連れ込まれてたらどうするつもりだった? というか俺は、一ノ瀬がお前を助けたってとこもあんまり気に食わねえけどな」
最後の言葉はプイッと顔を逸らし、子どもみたいに拗ねた口調で言う。
案外大人げないところのある一ノ瀬先生が高瀬をからかうのも、それに高瀬がこうやって対抗するような顔を見せるのも、本当に久しぶりのことだ。
苦しいことばかりの恋だった気がして忘れかけていたけど、そんなふたりのやりとりを見て笑いを堪えていたような、楽しい時間がたしかにあったのだ。
「つまり、勝手に危ない目に遭うなってことと」
高瀬は小さく唇を尖らせたまま、私の手を握り直し、真摯な黒い瞳で私をまっすぐに見上げる。
「それから、なにを疑ってんのか知らねえけど、秋音は俺の姉貴だから」
「……え」
私はたっぷり五秒口を開けたまま固まって、自分の恥ずかしい勘違いに頬が熱くなるのを感じた。
お、お姉さんなの?
あの超美人で魅力的なヴァイオリニストの秋音さんが……というか、高瀬ってお姉さんがいたの!?
高瀬ってば本当に実家のことを話したがらない。
あんな綺麗なお姉さんがいて、しかもテレビや雑誌で取り上げられるほどの有名な人なら、教えてくれたってよかったのに。
そしたら私だって、お姉さんを相手に浮気を疑ったりしなかった。