溺愛御曹司に囚われて
3.堕ちた天使と誘惑の電話
「えっ、それで許しちゃったの!?」
翌日、水曜日。朝からバタバタと忙しく、お昼休みになってようやく昨日のことを実衣子に報告できた。
「ほんとバカね! 私だったら絶対それだけじゃ許してやらないのに」
思い切ってリサイタルにまで行ってみたけれど、高瀬の隣にいたのは結局お姉さんの秋音さんだった。
二枚あったチケットも、一枚は私の分で、使われずに残っていたのを見せてくれた。
浮気を否定する高瀬に怪しいところはなかったし、至っていつも通りだった。
だからあの口紅もきっと秋音さんの物だろうって私は納得したんだけど……。
実衣子にはそれが信じられないみたいで、猫が逆毛を立てたみたいに眉をつりあげている。
「うーん、だけど高瀬が嘘をついてるとは思えないし」
あの高瀬が嘘をついてまで浮気してるなんて思えないし、思いたくない。
それに、万が一彼が本当に浮気をしていたとして、私には自分がどうするべきなのかわからない。
彼を失わないためには、このままでいるのが一番いいことのように思えるんだ。
「なんて言うか、小夜は物分りが良すぎると思うよ。高瀬くんがほんとに小夜を大事にしてくれてるなら、もっとわがまま言ったっていいんだよ」
「わがまま、ねぇ」
実衣子には、一ノ瀬先生のことはあまり詳しく話していない。
高校時代の恋愛の話になったときは『先生が好きだったから同級生とは付き合わなかった』と言ったきりだし、高校三年の夏以降、私の隣にいるのはずっと高瀬だけだ。
先生のことを隠したいわけではないけれど、昔のことを掘り返してまで深く話す機会も必要もなかった。