溺愛御曹司に囚われて

そして私はハッと気が付いた。
もしかしたら高瀬は、私のそういう気持ちを知っているから、実家や仕事のことを話そうとしないのではないだろうか。

私がそれを、負担に思うのではないかと勘付いているから……。


「私、今日は強引に会いに来てしまったけど、ハルちゃんとは今まで通り接してあげてね。きっとハルちゃんは、あなたが自分を高瀬家の御曹司としてではなくて、たったひとりの男として好きでいてくることを、望んでいると思うから」


秋音さんが姉として、弟の幸せを願っていることが伝わってくる。
私は彼女の真剣な眼差しにうなずき返した。


「はい。わかりました」


秋音さんの望む形になれるかはわからないけれど、私は高瀬が私を求めてくれる限り、きっと自分からその手を放したりはしないだろう。

彼女は満足そうに微笑むと、パアッと表情を明るくして身を乗り出した。


「そしてできれば、ぜひまた私と会って欲しいわ。ハルちゃんは拗ねるかもしれないけどね。私、ヴァイオリンが少し得意なのよ。今度コンサートにも招待するわね」

「ありがとうございます。あの、私、実は昨日のリサイタル、深春さんに内緒でこっそり行ってたんです」


私が昨夜の彼女の演奏を思い出して声を弾ませると、秋音さんは丸い瞳をパチリと瞬く。


「あら、そうだったの? あ、もしかして、昨日私とハルちゃんが一緒にいるところを見たのかしら? だからハルちゃんは私のせいって言ったのね」


秋音さんは高瀬の電話が相当癇に障ったのか、すごく嫌そうな顔をした。


「あの子もまだまだ子どもね。きっと相当必死なんだわ」


独り言のようにそうつぶやくと、ククッと喉の奥でおかしそうに笑う。
そしていいことを思いついたというように、ポンッと手のひらを叩いた。
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