溺愛御曹司に囚われて

「そうだ、来週の月曜日に少し大きなコンサートがあるのよ。すぐにチケット用意するから、ハルちゃんと来てね」

「本当ですか? ありがとうございます」


それから秋音さんは、高瀬が小さい頃の話や実家での様子を、おもしろおかしく話してくれた。

小学生のとき、なかなか自転車に乗れるようにならなくて、秋音さんにバカにされて泣いた話。
中学生のとき、勝手に秋音さんのプリンを食べちゃってこてんぱんにされた話。

高校生のときのある日、明け方まで帰宅しなかった彼を問い詰めたときの決まりの悪そうな顔。
そろそろいい人はできないのかとお母さんと秋音さんに詰め寄られ、渋々認めたときのはにかんだ表情。

どれも私の知らなかった高瀬で、コロコロと表情を変えながら話す秋音さんのおかげで、とっても楽しい時間を過ごすことができた。

たしかに高瀬の実家には少し難しいところがあるのかもしれないけど、彼がどれだけ大事に育てられてきたか、どんなに素敵な家族に囲まれているのか、それが初めて想像できてうれしかった。

料理を食べ終え、改めてお礼をする。


「今日は本当にありがとうございました。そしてご心配をおかけしてごめんなさい」

「いいえ。また私と仲良くしてくれればいいのよ」


秋音さんは高瀬の恥ずかしい過去をたくさん暴露できて、とても満足そうに微笑んだ。

彼女が鞄の中からリップクリームを取り出してそれを器用に塗り直すと、秋音さんの唇はほんのりと淡いピンク色に色付いた。

それを見て、高瀬のスーツのポケットから出てきたあの真っ赤な口紅を思い出す。
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