溺愛御曹司に囚われて
その日の深夜、満ち足りた気持ちで眠りについたはずの私はふと目を覚ました。
隣で眠っていたはずの高瀬がいない。
寝室に差し込む、リビングの淡い光。
その光に包まれるように、高瀬の声が聞こえてくる。
「姉貴に連絡しようか? ……ああ、わかった」
誰かと話してるの? 電話?
私は半分寝ぼけたままベッドから抜け出し、光の差す方へ向かう。
重たい瞼を無理やり開いて、ドアの隙間に目を凝らした。
「いや、わるいけど……ああ、そうだ。隣で寝て……、ひとりには……」
まだ覚醒しない頭では、高瀬の小さな声がなにを言っているのかわからない。
それでも、次の言葉だけはハッキリと聞き取れた。
「ああ、わかった。明日の夜、そっちに行くから。じゃあ、ゆっくり寝ろよ」
高瀬が歩き回る音がして、リビングの電気が消える。
私は慌ててベッドに潜り込み、口元まで布団を引き上げた。
誰かとの電話を終えて隣へ戻って来た高瀬は、寝たふりをする私の前髪を指先で優しく払う。
「好きだよ、小夜」
小さなささやきが、ぽつんと響く。
いつも私を満たしてくれたはずのその言葉が、初めて冷たく感じられた。