溺愛御曹司に囚われて
「ふと不安を感じてしまうのって、たとえばどんなときですか?」
私の問いかけに、種本月子はちょっと考えるような素振りをする。首を傾げると長い髪がさらりと揺れた。
「夜、ひとりきりのときとか。何度もあの場面が瞼に浮かんで、逃げ出したくなるんです」
そう言うと、種本月子は今までの硬い表情を一変させてふわりとやわらかく笑った。
「だけど今は、支えてくれる人がいるから。不安な夜には、電話をかけたりして」
それは幼い頃の天使の面影を残す、パアッと小さな花が咲いたみたいな笑顔だった。
「それって、恋人ですか?」
これはインタビューに全然関係ないってわかってたけど、ついその言葉が口からこぼれてしまった。
だって、冷たさすら感じる彼女の整った顔が花が開くみたいに綻んで、恋をする女の子そのものの表情のように思えたから。
「あ、いえ、恋人ではないんですけど……」
彼女はそこまで言って、躊躇うように言葉を切ってしまう。
恋人ではないけど、なんだろう?
もっと突っ込んで聞いてみたくなったけど、そこはグッと我慢する。
これ以上はただのゴシップ記事になっちゃうもん。
「たったの半年前のあのコンクールからうまく切り替えができてるみたいですけど、なにかきっかけになるエピソードとかはありますか?」
「きっかけ、ですか……」
種本月子は少し考えてから、サラリとした髪を耳にかけて照れたようにうつむ俯いた。
「実は三ヶ月前に、ある先輩のコンサートにお邪魔して……そこで出会った人に靴をもらったんです」
「靴を?」
種本月子は目を伏せたまま小さくうなずいた。
白くて丸い頬に長いまつげが影を落とし、その頬が淡く色付く。