溺愛御曹司に囚われて
イヤだった。
ここに高瀬を思う女の人がいて、高瀬がその気持ちに応えるかもしれないということが。
高瀬を失わずに済むのなら浮気も構わないだなんて、よくも本気でそう思えたものだ。
彼のあの黒い瞳が私以外の女性に優しい視線を向けることを想像しただけで、こんなにも息が苦しくなるのに。
私はいったいいつからこんなに欲張りになっていたのだろう。
彼が気まぐれに与えてくれるものを受け取るだけでは、もうとっくに満足できなくなっていたのだ。
今頃になってようやく気が付いた。
私はどうして、自分がこれ以上を望まなければ高瀬はずっと側にいてくれると、そんなことを愚直に信じていられたのだろう。
だからと言って、これからどうしたらいいのかわからない。
高瀬を失いたくないと思っているのは事実だ。
だけどそれは、彼が私を求めてくれるからなんじゃないの?
一ノ瀬先生を思ったように、なにもかもを捨てても彼がほしいと言えるのだろうか。
私はもう一度なにかを失うのが怖いから、高瀬に側にいてほしいだけなのかもしれない。
好きって、どういうことだっけ――?
もう随分長いこと自分の気持ちに蓋をしていた。
本当の気持ちを、私はどこで見失ってしまったんだろう。
”好きでもない男と付き合ってるなら、私が奪っても文句言わないでしょ?”
目の前の種本月子の唇が、真っ赤な口紅で染まった。
綺麗な三日月の形を描いて、私をからかうように笑う。
インタビューを終えると種本月子にお礼と激励の言葉を述べて、ふらふらと大学を出た。
さっきまであんなに爽やかに聞こえた音楽も、耳にまとわりつく嫌な音になってしまっている。
そしてスマホに届いていたメールが、さらに私を突き落とす。
『今日は帰れないかもしれない。先に寝てていいから。』
それはいつも通りの、なんの変哲もない高瀬からのメールだった。