溺愛御曹司に囚われて
今まで何度もこういうことはあったけど、バカ正直に信用して、無意識にこの関係に波風を立てることを恐れていたのだ。
しかし、もうそこから目を逸らすことはできない。
私は高瀬に、ただなんとなく側にいてくれる以上のことを望んでいる。
私の側にいる理由を、私にそうしたいと思えるほどの価値があるからだと言ってほしい。
他の女性を愛したりはしないでほしい。
失いたくない。
ずっと私の隣にいると約束してほしい。
だけど、自分の気持ちがわからない。
私が唯一知っている、一ノ瀬先生に感じた”好き”という気持ちとはなにかが違う。
熱く身を焦がすような、あの思いとは。
自分のズルさに吐き気がする。
高瀬のいない広いベッドで眠るのがひどく寂しく、その夜はリビングのソファで眠ることにした。
「高瀬、はやく帰って来て……」
はやく側に来て、抱きしめてほしいのに。
種本月子とは、なにもなかったと言ってほしい。
そもそも、そんなのは私の勘違いだと。
彼女のことなんて知らないよって、笑い飛ばしてくれたらいいのに。
その日、高瀬は朝になっても帰って来なかった。
* * *
翌日、金曜日。
なにをしていても私の瞼に映るのは、種本月子の紅く色付いた唇に高瀬がキスをする姿。
それをかき消すように、ひらすら仕事に没頭した。
「小夜、大丈夫?」
午後になって、定時まであと少し。
昼からノンストップで根を詰める私を、実衣子が休憩に誘ってくれた。