溺愛御曹司に囚われて
「うん、まあまあ。そんなに酷い? 私の顔」
明日は例の種本月子の出場するコンクールだ。
たとえ彼女が高瀬を奪っていこうとしてたって、仕事は仕事。
私は明日のコンクールに行って、ちゃんとした記事を書かなきゃいけない。
実衣子は困惑した表情でゆるゆると首を振った。
「でも、仕方ないよ。私でも信じられなかったもん」
「……? そう?」
あれ、私、実衣子にどこまで話したんだっけ?
なんとなく会話が食い違っているような気がして、私ははてと首を傾げた。
「あんなの絶対、最初から書くつもりだったのよ。だって記事になるのがはやすぎるもの。用意してあった記事に、たまたまぴったりの写真が撮れたのよ。最初から狙ってたんだわ」
小さな休憩室には私と実衣子しかいなくて、窓からは雨が落ちていく街並みが見える。
「ちょっと待って、記事って……写真ってなんのこと?」
「え? 小夜、あの記事読んで落ち込んでたんじゃないの?」
ハッキリとした瞳をまんまるにした実衣子が、すぐにバツの悪そうな顔をした。
「ごめん、余計なこと言ったかも」
そう言ってしらばっくれようとする実衣子を問い詰める。
初めは渋った彼女も、誤魔化せないと思ったのか、自分のスマホを操作して、インターネットサイトから今朝更新されたばかりのゴシップ記事を見せてくれた。
「あの、そんなに気にすることないと思うよ。種本月子って美人だし父親も有名だし、最近テレビや雑誌でも注目されてたもの……」
実衣子が記事に目が釘付けになる私に、小声でフォローを入れてくる。