溺愛御曹司に囚われて
たしかに種本月子は、この頃よくメディアに取り上げられていた。
実力も容姿も兼ね備えた彼女は、華やかな世界でもとても映えるのだ。
そしてついに、こんなゴシップ記事にされるほどの注目度を得ていたということだ。
『名門音大生・美人ピアニスト、大手シューズメーカーのイケメン御曹司と熱い夜』
その見出しを見て、息が止まった。
その下に続く下品な煽り文句から目を逸らさない限り、呼吸ができない。
そうわかっているのに視線は釘付けになり、どうしても読まずにはいられなかった。
私は一旦目を閉じて、浅く呼吸を繰り返す。
記事にはこうある。
近頃数々のパーティーで目撃されてきたふたりが遂にプライベートで密会をした。
男性はコンクール出場者のために用意されたホテルに現れ、ふたりはホテルのレストランで食事。
そしてそのまま上階にある種本月子の部屋へと姿を消した。
写真には、お酒で酔ったのか、高瀬に寄りかかる種本月子と、彼女を支えてエレベーターに乗り込む高瀬の姿。
この写真だけでは、実際この後ふたりがどうなったのかはわからない。
だけど、私は知っている。
高瀬は朝になっても、私が待つ部屋には帰って来なかった――。
「わっ! ちょっと、大丈夫!?」
身体中の血の気がサッと引いて、背筋を伸ばして座っていることさえできない。
実衣子が慌てて身体を支え、背中をさすってくれた。
「うん、ごめん」
「なにか飲み物買ってくるから、ちょっと待ってて」
実衣子が財布を片手にばたばたと休憩室を出て行く。
私はもう一度スマホの画面に視線を落とした。