溺愛御曹司に囚われて
「小夜、大丈夫……?」
そっと伺うように部屋に入ってきた実衣子が手渡してくれたあたたかいミルクティーを、小さくお礼を言って受け取った。
「ごめん……私、てっきり小夜はもう読んでるのかと思ってたの」
「ううん、いいの。たぶん、ネットニュースになってる記事ならいつかは目に止まっただろうし」
力なく首を振る私に、実衣子が言いにくそうに進言する。
「やっぱり、一回ちゃんと高瀬くんと話したほうがいいと思う。小夜のことだから、あのこと、きちんと話できてないんでしょ?」
そう指摘されては、自嘲気味に笑うしかなかった。
もしあの口紅を見つけたとき、すぐに高瀬に話をしていたら、こんなふうにぐちゃぐちゃになったりしなかったかな?
そんな想像をして、それは違うと打ち消す。
私が自分の気持ちの在り処をしっかりと見つけない限り、たとえ今回のことを回避できても、また同じようなことを何度でも繰り返すだろう。
求めることを恐れていた。
そしてそれでも私の気持ちを汲んで与えてくれる高瀬に、私は本当に甘えていたのだ。
「まあ、とりあえず今日は私の家に泊まったら? どうせ混乱して、話せる状態じゃないんでしょ」
「実衣子……」
「小夜がそういう性格だってことはわかってるわよ。私も、高瀬くんも。小夜は変なところが生真面目だから、ほんと不器用だし。だけどそういう子だから、たまにはなにも考えずに甘えさせてやりたいって思っちゃうのよ」
どこか照れくさそうに言う実衣子の顔が、やがて涙でにじんで見えなくなる。
涙を流してお礼を言う私の肩を、実衣子がそっとさすってくれた。