溺愛御曹司に囚われて
そのあとはお昼過ぎまで、ふたりで寝転ぶには少し手狭なソファでずっとくっつきあって過ごした。
疲れが残っているのか、高瀬は時折大きなあくびをする。
彼は鎖骨の下まで届く私の髪に触れながら、現在手掛けているsoirが、今はまだTAKASEの新シリーズとして試験的に売り込まれている段階だけど、いずれ独立させ、姉妹ブランドとして確立させる予定なのだと教えてくれた。
そのプロジェクトに御曹司である高瀬が全面的に関わっているのは、当然のことなのだろうと思う。
ちなみに、soirというのはフランス語で、『夕方』からまだ起きている時間帯の『夜』を指す言葉らしい。
TAKASEは老舗の高級ブランドとして一定の人気を保っているけれど、私のような平凡なOLにはちょっと手の届かない贅沢品だ。
soirは、そういう女の子がオシャレに足元を飾りたいと思ったとき、少しだけ背伸びをした自分を演出するためのブランドになっていくのではないだろうかと、私は密かに楽しみにしている。
そのまま寝入ってしまった高瀬をソファに残し、軽い昼食を用意する。目を覚ました彼と共に食事を済ませ、映画を観て、洗濯物を干し、またしばらくゴロゴロして過ごす。
ただ相手がそこにいることを感じながら休日を浪費するというのは、なんて甘美なんだろう。
だけどいくらなんでも、リビングの隅に取り込んだまま放置されていた洗濯物が小さな山を築き、しかもその頂上に覆いかぶさっているのが、昨夜私が脱がせた高瀬のスーツであると気づいたときには、自堕落に過ごした一日にほんの少しの罪悪感をもった。
私は洗濯物の山からチャコールグレーのスーツを取り上げる。
「このスーツ、クローゼットにかけとくね」
キッチンで昼食に使った食器の洗い物をしている高瀬の返事を背中で聞きながら、寝室のドアを開けた。
今日のように家ではダラダラくつろぐのが好きな高瀬が、仕事に行くときはこのスーツを一分の隙もなく着こなすのがなんとも不思議だ。