溺愛御曹司に囚われて
「これって?」
封筒を受け取って首を傾げる私に、秋音さんが優しく微笑みかける。
「月曜にある、私のコンサートのチケットよ。特別いい席を準備したから、ぜひ小夜ちゃんに来て欲しいの。本当はあいつと隣の席を用意してたんだけど、浮気男にはやらないから安心して。ハルちゃんには自腹で払わせるわ」
秋音さんも相当怒っているのか、頬を膨らませて言った。
あんな記事が出たあとでも、コンクールに招待するという約束を守ってくれる彼女が、私にはとても眩しく見える。
私もこんなふうに、記事や世間の目に振り回されることなく、強い気持ちで高瀬を好きだと言えたらいいのに。
「あの、秋音さん。本当にありがとうございます」
「いいのいいの、こういうのって結構自由になるもんだから。それよりこの会場、すっごく素敵なところなのよ! 私も大好きなの」
目をきらきらさせた秋音さんが、コンサート会場の魅力をこれでもかってくらい話してくれる。
「とっても有名な音響設計家が手掛けたホールでね。会場内も素敵なんだけど、その他も本当に素敵よ! 大きな舞踏ホールなんかもあって、ときどきパーティーが催されて、まるで中世ヨーロッパの社交界みたいなの」
うっとりとした秋音さんが興奮気味に話す会場は、『帝国葦原(あしはら)館』と呼ばれる場所で、私でも名前くらいは知っている。
入ったことはないから、大きくてとっても立派な建物としか言えないけど。
老舗シューズメーカーのTAKASEが属するのは、この帝国葦原館を創設した葦原グループだ。
そこは葦原家の別邸とも言われた場所で、葦原がまだ財閥だった頃に建てられたものらしい。
「葦原家はうちと遠縁でね、私もハルちゃんもときどきパーティーにお呼ばれするの。あそこで催されるクリスマスパーティーってば最高よ。ハルちゃんにチケットはあげないけど、でも絶対来ると思うわ。あの子、ここの会場大好きなのよ」
秋音さんは楽しそうに話を続ける。
本当に、コンサートが待ちきれないのだ。