溺愛御曹司に囚われて
「あーあ、俺、小夜ちゃんのこと大好きだったんだけどなあ。なんでお前、生徒だったかなあ」
先生がすごく今更な文句を言うので、私はプッと吹き出してしまった。
仕方のないことをぼやく先生は、まるで高校生の頃の私のようだ。
今ここにはないものを、求めることしか知らなかった。
今の私なら、大切な人になにかを求めるのと同じくらい、与えることができるだろうか。
くるりと背を向け、車の方へ戻っていく先生の後ろ姿を見つめた。
私はその背中に従い、それを指針に歩く。
私はこの人の背中を、決して忘れることがないだろう。
いつまでも憧れで、手の届かない、大事な初恋の相手だ。
大好きだった、私の先生。
星の降る、人魚の岬。
高校生だった私は、先生と一緒にここへ来ることはできなかったけれど、今ようやくこうしてふたりの手で恋を終えることができた。
もうすぐ、東から新しい明日がやってくる。
先生は一日かけて、そっと私の背中を押してくれたみたいだった。
今ならまっすぐに向き合える。
もう迷ったりしない。
失う恐怖も、離れる不安も、いつか訪れるんじゃないかと思う別れも、そのすべてを抱えて、それでも逃げ出さずに彼を見つめていたいと思う。
彼が与えてくれたものを、今度は私が返したい。
そしていつか彼が道に迷うときは、それ以上の大きな気持ちで彼を包み込んであげたい。
私に、そうさせてほしい。
高瀬が好きだ。