溺愛御曹司に囚われて
6.星降る夜に魔法のキスを
「先生、本当ににありがとう」
月曜日、私は先生の黒い車に乗って出社した。
本当は一旦家に帰りたかったんだけど、時間のない中で高瀬と鉢合わせるのは嫌だったから仕方ない。
お昼なら高瀬も家にはいないはずだから、休憩時間にダッシュで戻って余所行きの服を選んでこなくては。
今夜は、帝国葦原館で秋音さんのコンサートが開催される。
「もしあいつとうまくまとまらなかったら連絡しろよ。お前のことならいつでも拾ってやる」
先生はそう言って車の窓を閉めると、そのまま走り去っていく。
私を突然夢のような二日間に連れ去ったあの車は、同じくらいあっさりと私の前からいなくなった。
だけどなんとなく、またどこかで会える気がするの。
そのときには少しの甘酸っぱさを残したとしても、淡い恋心を抱いた初恋の先生として、彼を見られる気がする。
「よし! あのコンクールの記事、絶対いいものにするんだから」
今日、またここからなにかが始まる予感がある。
月曜日の朝も、万年人手不足のこの小さな出版社は忙しい。
すでに忙しなく動き回っている人もいて、挨拶をしながら編集部を目指す。
フロアに入った途端、実衣子が私に飛びついてきた。
「ちょっと小夜、あんたどうなってんのよ!」
「へ?」
興奮して掴みかかってくる実衣子に目を丸くする。
「誰よあのイイ男は! 連絡してこないと思ったらあんなイケメンの車で出社してくるなんて」
「あ。ああ、あの人はね……」
実衣子はきっと私が先生の車から降りるところをどこかで見てたんだ。
先生のことをなんとか説明しようとしたけれど、実衣子は朝からハイテンションでなかなか落ち着かない。