溺愛御曹司に囚われて
「本当にごめんなさい。私、あなたが深春さんの彼女だなんて知らなかったんです。とはいえ、ご本人に向かってとても失礼なことを言いました」
や、やっぱり高瀬の件だ!
彼女は私が高瀬の恋人だと気づいたんだ。
あのとき、目の前で高瀬を奪うと言われてもなにも言い返せなかった自分が恥ずかしい。
考えてみれば、なにをそんなに怖がっていたのかと自分でもバカらしくなる。
「えっ、あ、頭を上げてください!」
私が慌てて腰を浮かすと、種本月子が勢いよく顔を上げた。
そして強い瞳で私をジッと見つめる。
「あのときの発言には謝ります。だけど、あの気持ちに嘘はないです。私を見つけて、救ってくれた深春さんが好きなんです。私は彼のおかげで、もう一度ステージに戻る決心をしました」
私は彼女の飾らないまっすぐな言葉を受け止めた。
種本月子は、本気で高瀬に恋をしているんだ。
私は今までずっと、高瀬の優しさに甘えていた。
そのくせ、自分はなにも返そうとしなかった。
求めることも、与えることも。
私の代わりに高瀬にそうしてあげたいと思う女性が現れるかもしれないことを、ちっとも考えようとしなかった。
そしてそれが、自分にとってどれだけ耐えられないことかを。
「だから、もしあなたが彼をいらないなら私にください」
ハッキリと告げられた言葉に、私は息を飲む。
彼女の意志の強そうな双眸がまっすぐに私を捕え、私はそれに正面から応えた。
ゆっくりと首を横に振る。
「私にも、高瀬が必要なの。彼があなたを選ぶというのなら、もう一度振り向いてもらえるように必死で努力する。だけどもし彼がまだ私の側にいることを選んでくれるなら、私は決して彼の手を離しません」
これが私の答えだった。
あのとき言えなかったことを静かに告げる。