ねぇ、先生。

疲れてるはずなのに不思議と足取りは軽くて、美術室までの距離を短く感じた。

先生も何処と無く嬉しそう。

多分美術室は先生とって、一番好きで、一番落ち着ける場所だから。


―ガラッ…


「うわ、あつっ…」

ドアを開けた途端、梅雨独特のむわっとした空気が顔にかかる。

先生は眉間にシワを寄せて中へ入っていくと、雨が降り込まない程度に窓を開けていく。

「ん、入っていいよ」

ドア付近で立ち止まってたあたしに手招きをして、美術準備室に入っていく。


「それ、そのまま持って帰れないでしょ。輪ゴムあげるよ」

「ありがとうございます」

わ、絵の具の匂いだ。

入った途端にいつもの匂いがして、あたしまで落ち着いてしまった。

布が掛けられた大きなキャンバスの近くには、当たり前のように木の椅子が2つ置いてある。

先生と、あたしの分。

それを見てると何だか心臓がキューっと締め付けられた。
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