ねぇ、先生。

無理だよ中村さん。

謝る以前の問題、だってあたし目も合わせられないんだもん。

近づくだけで緊張するんだもん。

…この人は、あたしがずっと好きだった人なんだもん。


「あの…失礼しますっ」

久しぶりにこんなに近づいた。

先生、いつのまにカーディガンを着なくなったんだろう。

相変わらず絵の具は付いてるけど。


篠原先生の横を通って少し開いたドアから出ようとした。

このままここにいたら、また気持ちがあのときと同じように戻ってきてしまうような気がしたから。

中村さんは反対しなかったし、自分もそれでいいと思ってここに来たはずなのに怖かった。


「待って。」

手首をキュッと掴む先生の手。

もう片方の手であたしが出ようとしたドアをゆっくり閉めた。
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