ねぇ、先生。
「…ううん、大丈夫」
コクンと頷くと、先生はギュッとあたしの手を握って話し始めた。
ちゃんと聞いて、これからはそれを過去のこととして割り切るの。
絶対にここで聞いたことをいつまでも引きずらない。前の人はどうだったとか、そんなこと気にしない。
「茉央ちゃんを初めて見たときも彼女いたんだけど、その日に振った。俺ね、そのとき初めて女の子を振ったんだ」
「初めて?」
「うん、今までは振られるの待ってたから。やっぱさ、女の子って自分のこと思ってくれてない男のとこには長くいられないんだよね」
俯いてそう言ったあと、少し困ったようにあたしを見つめる。
先生が違う人みたいに見えた。
あたしが知ってる先生じゃないみたい。
「それが分かっててやってんだから、俺ほんとに最低だよ。」
先生である前にこの人は一人の男の人であって、あたしの知らない部分があってもおかしくない。
「だから茉央ちゃんに会って、付き合えて、初めて後悔した。」
そんな困った顔で笑わないで。