ねぇ、先生。
短くて暗い茶髪は緩くセットしてある。
スーツに身を包んだ彼。
きっと社会人なんだろうけど、幼い顔が彼の本当の歳を教えてくれない。
最初私服で来たときは、絶対に大学生だと思ってたのに、スーツを着てると社会人に見えないこともない。
名前も歳も知らない。
知ってることといえば、ここに来たらいつもビターのチョコレートとブラックコーヒーを買って行くということだけ。
だからあたしはこの人のことを「ビターさん」と呼んでいる。
…ビターのチョコレートとブラックコーヒーなんて、絶対に苦いものが好きだと思うから。
我ながらネーミングセンスないな、なんて思うけど、どうせ呼ぶのはあたしだけ。
だったらダサくてもいいかって思った結果、彼はビターさんになった。
これは、誰にも内緒。