ねぇ、先生。

短くて暗い茶髪は緩くセットしてある。

スーツに身を包んだ彼。

きっと社会人なんだろうけど、幼い顔が彼の本当の歳を教えてくれない。

最初私服で来たときは、絶対に大学生だと思ってたのに、スーツを着てると社会人に見えないこともない。


名前も歳も知らない。

知ってることといえば、ここに来たらいつもビターのチョコレートとブラックコーヒーを買って行くということだけ。

だからあたしはこの人のことを「ビターさん」と呼んでいる。

…ビターのチョコレートとブラックコーヒーなんて、絶対に苦いものが好きだと思うから。


我ながらネーミングセンスないな、なんて思うけど、どうせ呼ぶのはあたしだけ。

だったらダサくてもいいかって思った結果、彼はビターさんになった。

これは、誰にも内緒。

< 3 / 451 >

この作品をシェア

pagetop