ねぇ、先生。
「戻るの?」
先生は座ってたイスから立ち上がって、温くなってしまった冷えピタを痛くないようにゆっくり剥がした。
新しいのを持って来てくれて、そっと前髪をよけると、それをゆっくりあたしの額に貼った。
「うん、まだ片付けが残ってるんだ。」
「そっか…」
先生は体育の教師じゃないのにこうしてこき使われちゃうんだなぁ。
ほんとはもっと傍にいて欲しかったけど、そういうわけにもいかない。それに、多分そろそろ保健医が戻って来るんじゃないかな。
戻って来てしまえば、こうしていつもみたいに話すことすら出来ない。
あたしたちがこんな風に恋人同士として話せるのは、2人きりだってことが最低条件だもん。
「んふふ、まーたそんな可愛い顔して。先生心配で戻れないんだけど。」
「えっ…あ、ごめんなさい…」
無意識で先生を引き留めてしまうような顔をしてるんだろうか。だって先生は前にも似たようなことを言ってた。
「明日、休みだもんね。」
体育祭の次の日は毎年、うちの学校は休校になる。それは先生たちも同じみたいで、ほんとにここには誰も来ない。
先生も美術室に来ないってことだ。
…会う手段がないってこと。