ねぇ、先生。
「んー、ふふ、くすぐったいなー」
「あたしは苦しいよー」
しばらくするといつもの先生の声が聞こえてきて、腕の力が緩んだ。
先生があたしを抱きしめる力も緩んで、顔を上げるといつもみたいにふにゃんと笑う先生がいた。
「もう少しで完成するよ」
「ほんと?」
「うん、思ったよりも早く出来そう」
先生が指差す先には大きなキャンバスがあった。もう残されたのは2人の人だけ。
それが描き終わればきっと完成。
気づけばもう、ここに来始めて半年が経ってた。先生がここに来てもうそんなに経つんだ。
「楽しみにしてるね」
頷いた先生は、壁に掛けてある時計を見てあたしの体をそっと離した。
「そろそろ帰らないとね」
「…うん」
「また、明日」
あたしの頭を優しくポンと撫でた。先生に手を振ると、ふにゃんと笑いながら手を振りかえしてくれる。
浮かれていたのかもしれない。
先生も知らない″噂″のことなんて、このときはまだあたしも全く知らなかった。