ねぇ、先生。
「美術部の活動がない日に、美術準備室に女の子が来てる…って噂」
「それって…」
「茉央ちゃんだろうね」
淡々と言ったように聞こえたけど、表情はやっぱりどこか不安そうだった。
「うちの部の子が何回か見かけてたみたいで、美術部ではとっくに噂になってたって。それが今になって広まってる」
「お前…それ、相手が茉央ちゃんだって知られてんの?」
もしも知られてるなら、ヤバいのは蓮だけじゃなく茉央ちゃんも同じ。
だけど蓮は首を横に振った。
「俺、今日美術部の子に相手は誰なんですかって聞かれたんだ。茉央ちゃんだってことは知られてないみたい」
それを聞いて少し安心した。
「適当にごまかしたけど、そんなのがいつまでも通用すると思ってない」
安心すると同時に、やっぱり思ったことがあった。それは今俺の目の前にいる蓮のことで。
茉央ちゃんが大丈夫でも、こいつは大丈夫じゃないんじゃないかって。
色んなことが頭の中をグルグル回って、きっとこれから先のことを蓮よりももっと考えた気がする。
こいつは一応俺の親友だから、やっぱり心配になるもので。茉央ちゃんのことも気になるけど、蓮のことも気になった。