ねぇ、先生。

「寂しいとか、考えたことなかったなー」

確かに考えてなさそうだけど。

きっとこの人は、こんな風に絵を描き始めると熱中しちゃって、そんなこと気にならないんだ。


「好きでやってることだからね。それに、グラウンドから野球部の声が聞こえてくるし、意外と賑やかだよ?」

言われてみて耳を澄ますと、確かに微かに野球部の声が聞こえてくる。

こうして流れていくゆったりした空間が好きなのかもしれない。


「あ、どう?美術の先生っぽくない?」

思い出したように振り返った先生は、あのときみたいな自信満々に言った。

「今はちゃんと、美術の先生ですね」

だって、服にそんなに絵の具付けて校内を歩き回ってるのなんて、美術の先生以外いないでしょ?


「よかった。咲良さんなかなか来ないから、約束忘れてんのかと思った」

ふにゃん、とあたしに笑いかける。

篠原先生が言う″約束″っていうのはきっと、あたしから美術室に来るってことなんだろう。

あれ、約束だったんだ。

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