ねぇ、先生。
「……まだ知られてないから。」
蓮くんの小さい声が聞こえた。小さいけどハッキリしてて、迷いのない声。
俺をしっかり見据えて。
「え?」
どういう意味か分からなくて聞き返すと、蓮くんは今度は俺にもちゃんと聞こえる声で言った。
「…いくら噂が流れても、相手が茉央ちゃんだってバレてないならいいんだ」
確かに、噂の内容はここに女子生徒が通ってるっていうものだった。
″誰が″なんていう、具体的なことは誰も知らないってことだ。
「俺は生徒から避けられても、変な目で見られても別に構わないよ。茉央ちゃんが傷付くよりずっといい。」
……あぁ、やっぱり。
蓮くんはただ自分のために咲良を手放したわけじゃないんだ。
「だけどバレたらそうもいかないから。だったら今のうちに離れた方がいい」
それ、咲良は知らないんだよ。
わざと言わなかったのかもしれないけど、あいつ泣いてた。蓮くんの言ったことに傷ついて。