ねぇ、先生。
「…茉央…」
「っ…加地くんといると、辛いの…」
保健室に向かっていた梨花は途中でゆっくりとペースを落として歩いた。
どこに行くかなんて、今はもうどうでもよかった。離れられるなら、どこだってよかった。
「加地くんと一緒にいると、先生のことばっかり考えちゃって…っ」
自分でもよく分からない感情。
今すぐにでも美術準備室に行きたかった。先生に話を聞いてもらいたかった。
話を聞いて、いつもみたいにギュッと抱きしめてほしかった。
…でもそれはもうできない。
「加地くんの言葉とか…っ、仕草とか、無意識に先生と比べちゃうの」
ふにゃんと笑う先生の笑顔と、加地くんの少し口角を上げる笑顔。
緩くて優しい先生の喋り方と、荒くて言葉遣いの悪い加地くんの喋り方。
綺麗で整った先生の字と、男の子らしい荒っぽい加地くんの字。
…正反対だ。
先生と加地くんは性格も話し方も笑い方も、正反対のとこにいる。