ねぇ、先生。

「…茉央…」

「っ…加地くんといると、辛いの…」

保健室に向かっていた梨花は途中でゆっくりとペースを落として歩いた。

どこに行くかなんて、今はもうどうでもよかった。離れられるなら、どこだってよかった。


「加地くんと一緒にいると、先生のことばっかり考えちゃって…っ」

自分でもよく分からない感情。

今すぐにでも美術準備室に行きたかった。先生に話を聞いてもらいたかった。

話を聞いて、いつもみたいにギュッと抱きしめてほしかった。

…でもそれはもうできない。


「加地くんの言葉とか…っ、仕草とか、無意識に先生と比べちゃうの」

ふにゃんと笑う先生の笑顔と、加地くんの少し口角を上げる笑顔。

緩くて優しい先生の喋り方と、荒くて言葉遣いの悪い加地くんの喋り方。

綺麗で整った先生の字と、男の子らしい荒っぽい加地くんの字。

…正反対だ。

先生と加地くんは性格も話し方も笑い方も、正反対のとこにいる。

< 396 / 451 >

この作品をシェア

pagetop