ねぇ、先生。
聞き覚えのある声に、顔を上げた。
「何で…」
ぶっきらぼうに言う彼は、黙ったままあたしのカバンを差し出した。
「高橋に、咲良が走ってどこかに行ったって聞いて探してたんだよ」
「…加地くん、もう帰ったのかと思った」
「お前と高橋のカバン届けに保健室行ったらいねぇんだもん。」
あたしの前に座って、頬に伝った涙を親指で優しく拭った。
その行動にか、先生のことでかは分からないけど、やっぱりまた涙は溢れてきた。
加地くんの前だとどうしてこうも素直に泣けてしまうんだろう。
「…泣くほど辛いんじゃん」
加地くんはポツリと呟いて、何度も何度も涙を拭ってくれる。
「…もうさ、やっぱり俺を見れば?」
真っ直ぐとあたしを見つめる目がすごく優しくて、一瞬、加地くんなら幸せにしてくれるんだろうな、なんて思った。
「俺だったら絶対に泣かせない。」
きっとすごく、大事にしてくれる。
そう思うのにすぐに頷けないのはやっぱり、あたしが好きなのは加地くんじゃなくて先生だから。
こんなにいい人を傷つけちゃいけない。