ねぇ、先生。
「…何それ…今このタイミングで、わざと言ってるの?中村さん」
ただの世間話としてそれを言ったわけじゃないってことは明らかだった。
惑わせるようなことを言って、加地くんを選ぼうとしたあたしの決心を簡単に崩そうとする。
「んなもん、わざとに決まってんじゃん」
「何で…」
「お前がそんな顔するからだろ。」
ため息をついて、あたしの頬を思いっきりつねった。
「いった!!」
すぐに離されたけど、ヒリヒリしてジワリと涙が出てくる。寒さで固くなった肌には強すぎる刺激だった。
「いいか、加地を選ぶならあいつの前で二度とそんな顔すんな。自分の中で区切りが付いてねぇなら、お前に加地を選ぶ権利はない」
区切り?つけたはずだった。
自分の中では、終わらせたつもりだった。
でも、他人の目からそう見えてるなら、やっぱり終わらせた″つもり″でいるだけなんだよね。
「…あたし、どんな顔してる?」
大丈夫、だってもうすぐ学校に来なくなって、先生と会うことだってなくなるんだから。
少しずつ気持ちは小さくなるよ。