ねぇ、先生。

小さなピンクの花



この先にいつもとは違う先生がいると考えると、やっぱりどうしても胸は高鳴った。

あの日から一度も来なかったこの場所に、もう一度来るなんて思わなかった。

だってもう、目を合わせることもできないと思っていたから。

あぁダメだ、もう泣きそう。


コンコン、とノックするけど、やっぱり中からは何も聞こえてこない。

「…失礼します…」

返事がないのはあの時と同じで、いるならきっと奥の部屋だから。

中に入ると懐かしい匂いが鼻を擽って、ジワリと涙が溢れ出た。


好きだったんだ、すごく。

この匂いも、後ろに飾ってあるあの桜の木の絵も、木の椅子も…

…隣でふにゃんと笑う先生も。

全部、大事だったんだよ。

時間が経っても忘れられないくらい。


久しぶりに見たこのドアを、深く息をしてノックした。

静まり返った室内にコンコンと音が響く。


< 436 / 451 >

この作品をシェア

pagetop