ねぇ、先生。

絵の具の匂いも、2つ並べられた木の椅子も、あの時と変わってなかった。

…ただそこに、先生はいなかった。

シンと静まり返ったそこで、1つだけ変わったことは、大きなキャンバスがなくなってしまったこと。

…先生が、あたしが卒業するまでには完成させると言ってくれたあの絵は、もうここにはない。


「なんで…」

そんなにあたしに会いたくなかったかな。

ただ話したかっただけなのに。

だって、最後だよ?

今までは話せなくても、目が合わなくても、同じ空間にいれた。

…もうそんなことすら出来なくなるのに、何も言わずに終わっちゃうの?


あたしがここに来て、先生がここに来てくれないのはこれが初めてだった。

だって先生はあたしがここに来るといつでも、遅れてでもここに来てくれた。

…だけど今日は、いくら待ってもここには来てくれない気がする。
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