ねぇ、先生。
立ち上がって美術室を見渡す。
独特なこの絵の具の匂いにも、もうすっかり慣れてしまった。
教室の後ろの壁には、一面に生徒が書いた絵が貼ってある。
その中に一枚、目を惹く絵があった。
「…名前、書いてないんだ…」
どの絵にも名前は書いてあるのに、その絵だけどこにも名前はない。
一本の桜の木の絵だった。
そういえば、バイト先の前の道にもこんな桜の木があるなーなんて。
誰が描いたんだろう。
こんなに綺麗な絵なのに、どうして名前を書かなかったんだろう。
そういえば、バイト先のあの桜も春には綺麗に咲いてたなぁ。
毎年綺麗に咲くんだよね。