【完】切ないよ、仇野君
「じゃあ、今、どやん我儘ば言おうとしよっと……?」


怖いけど、聞かずにはいられなくて。


吸い込まれそうなくらいに澄んでる丸い黒目に、小さく宿った闘志。


それに吸い込まれそうに、いや、多分もう吸い込まれている私は、気付いた時には泰ちゃんとの距離はゼロで。


闘志のたぎった瞳はいつの間にか近すぎて見えなくなってて、唇には、柔らかくて温かくて、少し湿ったものが引っ付いてる。


「……ごめん。正直言うとな、今はインハイんこつで頭いっぱいや。やけど、我儘ばってん、ちーは、歩も、椿にも、渡したくなか」


いつもより甘いその声で囁いた泰ちゃんは、返事を待たないでまた私の唇を塞ぐ。


『ちゅ』と時折倉庫に響く音が生々しくて、少女漫画とは違う、けれど、洋画の濃厚なのとも違うキスにどんどんドキドキが加速する。


「こん気持ち、どげんしたら良いか分からん。これまで経験した『好き』って気持ちとは違うけん、告白も出来ん。けど、キスしたい、触りたい、抱き締めたい……な?我儘やろ」


もう、泰ちゃん声とキスにどろどろに溶かされた私は、泰ちゃんのその囁きに対して、何も考えることすら出来なくて。
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