【完】切ないよ、仇野君
椿はお母さんが持ってきたりんごジュースを飲んで、『ほう』と寛ぎの息を漏らす。


「お前、自分がバスケ部のお荷物とか思うなよ。辞めんなよ。泰ちゃん苦しめてるとか言うな。……俺は、お前がいてくれるともっと頑張れる」


「椿……」


その言葉が温かくて、すがりたくなって、私の顔を見ないで言ったその言葉に返事をする代わりに、額を広い背中に寄せる。


私と同じ175センチ。クラスの男子の中では身長が高いけど、バスケ部の中では小さな方で。


だけど、ボールを操る手は大きくてゴツゴツしてるし、細いのに身体中に筋肉がついていて、触れるとがっしりしている。


「椿さ、右手の中指、ちゃんと固定せんとダメやろ。突き指しちょるど?」


「……あれ、軽いやつだから放置してたけど、良く気付いたな。やっぱりちーは、マネジ向いてるよ」


気付けるのが特技だから。それだけが取り柄だから。


椿は突き指した中指のついた右手で、再び振り返り私の頬をやんわりと撫でた。
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