【完】切ないよ、仇野君
じっと雫ちゃんを見て、察してくれの目線を送ると、雫ちゃんはスマホゲームを止めて私の方を向く。


「そやん見たって『ちー先輩的には』がどやん意味か知りたかって伝わらんばい」


「伝わっとるやん」


それでもじっと見ていると、雫ちゃんは得意の盛大な溜め息をひとつ、はぁっと強くわざとらしく落とした。


「ちー先輩ん態度が急に変わったもんやけん、泰河先輩あからさまに戸惑っとらす。あん人、分かっとーと思うけど、かなり鈍感で不器用やけんね」


そして、ぐっすり寝ている泰ちゃんを憐れみの目で見て雫ちゃんがついに笑い出した。


「私が態度変わると、泰ちゃん戸惑うこつあるん?」


「あるある。鈍感っても、ちー先輩が他ん奴よか自分に懐いとるんは分かっとらすと思うんすよ。やのに、今朝急にそれが他ん奴と同じになったっちゃけんね、オーラがゆらゆらしとる」


よほど面白がっているらしい雫ちゃんは、滅多に見れないくらいに楽しそう。


「押してダメなら引けて言うくらいやし、意外と効果テキメンやったんじゃ?」


「もー、そやんつもり無かとに……」


そんなこと言われてしまうと、しばらく封印と決めた恋心が、柵を壊して襲ってきてしまいそう。


「ばってん、ちー先輩が前向きに決めたこつやし良かとやなか?決めたんなら、頼りにしとーばい、マネージャー」


「ま、任せて」


雫ちゃんは、椿と違ってかなり意地悪だけど、椿と同じくらい、こうやって必要な言葉をくれる。


だから、いつも私を支えてくれる皆の為に、この夏はバスケ部に捧げようと心に決めたんだ。
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