【完】切ないよ、仇野君
水高は順当に勝ち上がり、今日は残すところ一戦となる。
次の試合を待つ間、由貴先輩は椿を引っ張って、順当に行けば明日の第一試合で当たるだろう学校の偵察に行ってしまった。
行雲キャプテンはケイ先輩と雫ちゃんを引き連れ、肥後学の応援に行っていて、自然と私は泰ちゃんと二人きり。
封印したと言っても、やっぱり泰ちゃんと二人きりになってしまうと止められないドキドキ。
そんな自分をぐっと押し殺していると、バッシュの紐を直していた泰ちゃんが、そっと顔を上げた。
「ちー、俺、観に行きたい試合があるっちゃけど、もう一個の会場に付き合わん?」
「うん、良かよ。次ん試合ん案配で、途中で帰ることになるばってん、大丈夫?」
時間を気にして腕時計を見ながら答えると、泰ちゃんは『構わんよ』とふんわり微笑んだ。
笑うと垂れ目がもっと下がって、幅広の薄い眉毛も目と平行に下がり、そのくにゃりとした表情が、泰ちゃんの優しさを引き立てる。
こんな些細な表情にだって、ホントはニヤニヤしたいくらいに好きだけど、私は今は、自分にとっても泰ちゃんにとっても『特別』じゃいけないから、この気持ちは無理矢理に押し込めた。