【完】切ないよ、仇野君
「泰ちゃんって、そういうん狙ってしようと?女ん子泣かしやわ」


だから、気持ちを押し込める為に、普段は言わないようなことを言ってみようと思うんだ。


泰ちゃんは、私の言葉にきょとんとして、ふわっと困ったように表情を和らげる。


「……ははっ!ちーが雅美んごつ言うち、思わんかった。俺がこん顔モテるばいて思ってやっとったらキモかろーもん」


「確かに。そやん泰ちゃんやったら、私距離置くかんしれん」


恋する気持ちに封する事が、決してマイナスなことばかりじゃないって、改めて気付かされる。


イチクラスメイトとして、イチ友達として、そして、イチ部員とマネージャーとして、他と同じように接することで、私は泰ちゃんの知らない一面を見ることが出来るから。


「行こう。試合に夢中になっとったら、ちーがちゃんと俺ば引っ張ってってな?」


「任しとって。ひっぱたいてでん試合には連れてくけん!」


冗談混じりに答えれば、泰ちゃんは『暴力は止してばい』なんて、また一層眉毛を下げた。
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