【完】切ないよ、仇野君
「皆バラバラ。大丈夫とやろうか?」


「大丈夫!ちーちゃんが思っとるよか、あん奴等は心臓に毛がボーボー生えとるけんね!」


そんな皆を心配する私とは逆に、由貴先輩は全然心配していないよう。


「今年こそ、奴等とてっぺん見るん約束したけん。勿論、それは県のじゃなかよ。もっと上たい」


由貴先輩や皆が見据えるのは、私が願うこの大会の優勝よりももっと先。


上を向いても、私にはこの体育館の天井の照明と骨組みしか見えないけれど、きっと、その先吹き抜けた場所に、皆が見ている景色があるんだ。


私もその景色を見たい。ぼんやりとした夢みたいな幻想じゃなくて、この目で確かめたい。


「調った……皆!作戦を話そうか」


いつの間にか丸まっていた筈の背筋をしゃんと伸ばして立ち上がっている椿の瞳は自信に満ち溢れている。


「雫ぅ!シャカシャカ音楽聴いちょらんと、はよ来いや!……だいたい、何なんてこのピコピコ!」


「あっ!気分良くボカロ聴いちょったんに!キャプテンにはパスやらん!」


それでも緊張感の無い会話が飛び交う私達サイドのベンチ。これは、心強いと思っても良いのかな。
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