【完】切ないよ、仇野君
「ちょっとあんたら、一軍なんやけんそこでイモイモせんで練習入れ!」


「っで!由貴テメェ!普通にケツに蹴り入れんなし!」


突如話していた神楽木先輩が何かの衝撃で吹っ飛んだかと思うと、次に現れたのは前下がりのボブを揺らす、可愛らしいのに色っぽい女の人。


決して太ってはいないけど、女性らしく丸みを帯びた色気漂う体つきと、強気そうな、素っぴんなのに派手な目が印象的なその人。


「泰河、こん子が例の掘り出し物?」


「はい、絶対、由貴先輩も気に入りますけん」


仇野君は相変わらずおっとりした微笑みを携えて、ようやく私を地面へと優しく降ろす。


っていうか、何で私はここに連れて来られたのだか、未だに分からない。


そんな私の疑問に満ちた顔を見て『由貴』と呼ばれた、恐らく先輩であろう人は向日葵が咲くような笑顔で私に笑いかけた。


「去年の小鳥遊椿ば思い出すわ。泰河に担がれて体育館に来るとか。名前は?」


「えっと……彩月、千歳です」


「そう。じゃあちーちゃんやね。私は由貴。男バスのマネジ。行雲!あんたも来て!面接すっばい!」


私に軽く自己紹介をした由貴先輩は、まだ蹴られたお尻を擦る神楽木先輩に向かって叫んだ。


「あの……面接って、何のこつか聞いとらんとですけど」


「そりゃ勿論、マネジとしての面接じゃ!」


疑問をぶつけた私に対して答えた神楽木先輩は、その麗しの美貌をくしゃっと崩してニカっと笑い、そう言い放った。
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