【完】切ないよ、仇野君
ボールは相手の部員の人が操っていて、そのボールを素早く捌く姿は、私が授業で見てきた物とは全くの別物。


ディフェンスで体勢を低くした小鳥遊に対して、まるで挑発するように、左右にボールを散らせ、たまにテンポを変えて足を上げたり、股に通したりしている。


まるで、ひとつのエンターテイメントを見ているよう。


「椿ん相手はうちの攻撃の要の圭介。あれで、去年は一時期ベンチから外されとった選手ばい。まぁ、それも努力で取り戻した、ガッツのある選手たい」


まさか、あんな動きが出来る人が去年はベンチ入りすら許されなかっただなんて、信じらんない。


「甘い!」


小鳥遊がそのボール捌きの隙を突いて、無駄の無いスピードで手を伸ばす。


だけど、相手の人はそれに動じることなくヒョイ、と後ろから高くボールを上げると、再びキャッチし、体勢を崩した小鳥遊の背中へトン、とボールを乗せた。


「おー、ナイスキャッチ椿姫?」


「くそっ!あんた一年で上手くなりすぎなんだけど!去年はザコだったくせに!」


ニヤリと笑ったその人は、素早いテンポで小鳥遊を置き去りにすると、ワンショット、ヒョイ、とボールをゴールリングに通した。
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