【完】切ないよ、仇野君
神楽木先輩が今にも片手でダンクを決めようとしているその後ろから、仇野君が飛び上がったから。


その、2メートルを誇る長身と大きな掌は、ゴール目前だった神楽木先輩の遥か上。


ボールをガッシリ掴んだかと思うと、力技でバックボードにぶつけ、誰もが決まると思っていたそのゴールを阻止した。


「泰河はね、主人公になれるプレイヤーじゃなか。けど、ああやって、いつもゴールを守ってくれる、うちのゴール下の番人ったい」


主人公になれない……その一言が、私の心をザワ、と揺する。


そうかもしれないけど、でも……今この瞬間、私はゴール下にどっしりと立つ仇野君しか、見えていなかった。


「チクショー!相変わらずどげんなっとっとやお前!完璧抜いたと思っとったつに!」


「行雲キャプテンがインサイドしか無いんは俺が一番分かっとりますけん。……それに、今だけは、負けれん、です」


そう穏やかに笑った仇野君の柔らかな表情があまりに眩しくて、私の心の中のものがパリン、と音を立てて弾けた。
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