【完】切ないよ、仇野君
最初こそ『彩月さん』『仇野君』なんて呼び合っていた私達だけど、バスケ部特有の仲良しの雰囲気に呑まれ、お互いを『ちー』『泰ちゃん』と呼び合うのも自然になった。


勿論、『小鳥遊』と呼んでいたあいつも『椿』と呼び、『神楽木先輩』と呼んでいたけれど『行雲キャプテン』に変わった。


バスケ部の皆のこういう優しいところが、普段は人見知りの激しい私を馴染ませてくれているのかもしれない。


「いつもボールとか備品とかありがとう。俺等より朝早かけん、疲れん?」


「大丈夫。それに、私より由貴先輩ん方が毎日早かし、尊敬すっばい」


未だに私の頭を柔らかな手付きで撫でる泰ちゃんは、その答えに垂れ目を優しく細める。


あーこの顔……反則、だと思う。


失恋してそんなに経ってないし、傷は癒えてない。


けれど、忙しくなった毎日の生活と、この、優しい泰ちゃんの全てへの淡い思いが、私をキラキラと照らし付ける。


現金かな、私は、簡単にこの優しいビッグマンに、恋をしてしまった。
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