【完】切ないよ、仇野君
そして、泰ちゃんがすっと私の肩を抱く。


笑っていたリーダーグループ男子も、椿も、他のクラスメイトも、それには驚いたらしく、しん、と静まる。


「たっ……泰ちゃん?」


私だって同じで、今の状況がどういうことなのか、全く分からない。


だけど、目の前の泰ちゃんはそれはもう柔らかく、まるでピアノの音色みたいな優しさの滲む笑顔。


そして、ぐぐ、と高い位置にあった顔が、私の方へと急接近したのだ。


その顔は……もう10センチも空間が無いくらいの距離になると、ぐるり、とリーダーグループ男子と椿の方を向く。


「皆はちーとチューする時は背伸びせなんかもしれんけど、俺やったら、寧ろ俺が首筋鍛えんとな」


静まった教室は、誰か女子が悲鳴をあげたことにより、どんどんと騒ぎ出す。


「うぉぉー!泰河、穏やかなふりしてやるばいた!」


当人の私達を他所に騒ぎ出すクラス中の声とは裏腹に、私は泰ちゃんの、柔軟剤の良い香りに包まれて訳も分からず心臓が加速する。
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