【完】切ないよ、仇野君
もう一回こちらを見て目を細めた泰ちゃんは、私の肩から手を離し、その大きな手で私を撫でた。


「曇っとる顔よか、照れとる顔のがまだ可愛かごたるな」


「な……!」


これは、私の意識を少しでも別のところに向けるためにしてくれた大胆行動なのか。


「ば……バカ、そういうこつする?泰ちゃん、意外とチャラかばい」


「誰彼構わずはせんよ?」


その行動が嬉しくて、さっきの負の感情がすっかり消え失せた私は、照れ隠しに泰ちゃんに毒を吐く。


けれど、泰ちゃんは気の抜けるようなぽんわりとした表情で、あくまで彼らしくゆっくり、少し遅めのテンポで返答した。


そんな私達を、椿が生意気な笑顔でニヤリと笑い、見つめる。


「ふぅん?じゃあ、泰ちゃんの中でちーは『誰彼』の中の存在じゃ無いってことだ?」


その言葉に、泰ちゃんは少し困ったような顔で笑い、朝練で突き指してテーピングを巻いた人差し指で、顎をポリポリ、と掻いた。
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