【完】切ないよ、仇野君
「それ、俺も食べたか」


「ん?はい」


あまりの美味しさに固まっていた私にニッコリ笑った泰ちゃんに、よもぎパンを差し出す。


すると、泰ちゃんはすいっと顔を寄せてぱくっと一口、パンを啄んだ。


普通、受け取って食べるとか、食べる分だけ千切るとかじゃないの……?


『あーん』レベルのことをやってしまった気がして、どんどん顔が熱くなる私と、それに対して全くそんなつもりのない泰ちゃん。


そんな私達をじとーっと大きな猫目で見ていた雫ちゃんが、一言。


「先輩等、イチャつくんやったら俺んおらんとこでしてもらえます?」


その一言で更に顔が熱くなった私と、言葉の意味を理解出来ないでぽわんとした顔の泰ちゃん。


泰ちゃんは私の方を見て、そして、パンを持った私の手を支えた自分の手をパッと離してキョロキョロし始めた。


「ちっ!ちが!いや、ちがくて!雫!俺とちーばからかうとか、ちーに失礼やろ!」


「そッスか?ちー先輩も満更でも無さそうやけど?つか、あんたらお似合いやと思うばってん」


追い討ちをかけられるようにニヤリ、と笑われて、私は思わず両手で顔を隠してしまった。
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