【完】切ないよ、仇野君
「っていうかあの……『弟』って?」


「あー、あん子なぁ、去年のうちのエースの弟君なんよ」


去年のエース………つまり、卒業生の先輩。


そういえば、去年のバスケ部の先輩には二人、学校内で有名な先輩がいたっけ。


一人は去年のバスケ部の部長で、由貴先輩の彼氏さん。物静かなイケメンとかで、女子達がしきりに騒いでいたから顔も覚えている。


そしてもう一人は、アメリカに短期留学してたという、度々バスケの取材が来てたりした凄い先輩。


「あの有名な先輩ん弟なんですねぇ」


「そうばい。あん子も兄貴に負けんスタープレイヤーばい。その彼がおるチーム。私達も全国区やけんて油断は出来ん。なんせ、熊本県は一番のチームしか全国に行けんしな」


そっか……この世界も厳しいんだ。特に、田舎のこの熊本では、勝ち上がって全国に行くのは一握りなんていうレベルの話じゃない。


「整列が始まったね。ちーちゃんはうちの個人の得点スコアば取ってな」


「分かりました!」


話しているうちに、アップを兼ねた練習は終わり、試合開始の整列が行われている。


初めて観る皆の試合に、私の鼓動は音を経てて暴れ出した。
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