【完】切ないよ、仇野君
開始9秒、水高に先制の2点が入る。


「コラ雫!ライン踏んでスリー逃してんなよ!」


「椿先輩んパスが前過ぎたんスよ」


戻りながら言い合いをしている椿と雫ちゃんに、私は息をするのを忘れてしまいそうになっていた。


「今の、ライン踏んどりました?」


「そうみたいやねぇ。ホラ、ちーちゃん統計取らな!」


私は由貴先輩に指摘され、ノートの雫ちゃんのところの『2P』の所に正の字の一画を加えた。


惜しくもスリーポイントを逃した雫ちゃんだったけど、完璧なシュートだった。


でも、思うにあの雫ちゃんのシュートが入ったのは椿の隙の無いアシストのおかげだ。


技術もさることながら、視野範囲の広い椿のパスコースを予測してスティールするのは難しいらしい。


更には、何手も先を読んで動き、戦略を張り巡らせる椿は、司令塔として水高を大きく支えている存在なんだ。
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