【完】切ないよ、仇野君
もたもたと統計を取っているうちに、オフェンスは荒商のターンに。


「……何あれ!すっご」


顔をあげた時、私は凄まじい光景にただ声を漏らした。


顔を上げた時に目に写ったのは、荒商のガードから歩君にボールが渡ったところで。


歩君に対して、他が手透きになるのを覚悟で行雲キャプテンとケイ先輩が二人がかりでディフェンスについたのに、歩君は焦ることはなかった。


タン、と軽い足取りで二人に詰め寄った刹那、ドリブルのリズムをほんの少しずらしてケイ先輩の体制を崩させ、カバーに入った行雲キャプテンの逆サイドを、ボールを背中に一周させて抜き去った。


「チィッ!二人でん止まらんか!」


ゴールへまっしぐらに向かっていく歩君に、ケイ先輩の声が響く。


抜かれた二人はスクリーンアウトに入り、リバウンドに待ち構える。


ゴール下は、泰ちゃんと歩君の一騎討ち。


「泰河ァ!」


行雲キャプテンの声がフロアにキン、と浸透し、緊張感が増す。
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