【完】切ないよ、仇野君
自分よりも大きい泰ちゃんに対して、歩君は果敢に飛び上がる。



「そんなん……許さん!」



いつもは穏やかな泰ちゃんの、いつもとは違うぴりり、とはりつめた声に鼓動を鳴らす心臓までぴりぴりする。


怖れず飛んだ歩君。歩君を止めるために飛んだ泰ちゃん。


ゴール下での、主役のスタープレイヤーと主役になれないスタープレイヤーとの戦いに、瞬きさえ許されない気がする。


その、空中の戦いを制するのは……。


…………ドカァァ!!


「泰ちゃんっ!」


「ピッ!ディフェンスチャージング!バスケットカウントワンスロー!」


主役のスタープレイヤー、歩君の勝利を告げる、バスカンのコールが響き渡る。


ゴール下でゴールが決まったうえでファウルを取られると、相手にフリースローが一本渡されるバスカン。


センターを勤める泰ちゃんにとって、バスカン程痛いものは無いだろう。


「ナイスガッツ泰河!一本取り返すばい!」


「ッス!」


主役になれなくても、その一本を守りきるために心身ともに痛め付けるゴール下の番人は、どんな思いでいるのだろう。
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