【完】切ないよ、仇野君



試合は点の取り合いのまま進行して行く。


48対52と、たった2ゴール差の劣勢と言うには僅差のまま、ハーフタイムに突入する。


休憩もそこそこ、椿はメンバーと箱田先生を囲み、前半で観察した相手の弱点を突くような戦略を語っている。


「…………という訳だから、今回の作戦には泰ちゃんが不可欠。オフェンスもディフェンスもね。体力は大丈夫?」


「ここで『でけん』って言ったってやらすとやろ?」


汗を滲ませた額で尚爽やかに笑って見せた泰ちゃんに、椿も生意気な笑みを返す。


「さぁ、新生水高の快進撃といこうか。キャプテン、あれ、よろしく」


椿の不敵な笑みに、行雲キャプテンも楽しそうな表情を滲ませる。


ベストメンバーの五人が肩を組み、円陣を作ると、行雲キャプテンが今日一番の大きな声を張り上げた。


「ぶっ潰す!!」


「「「「イェッサァァ!」」」」


ドォォン、とフロアを強く片足で鳴らし、物騒な気合い入れを済ませた五人が、コートの中に戻って行く。


その後ろ姿の頼もしさを、私は上手い言葉に変換することが出来ない。


それ程に、何故だか、勝ちしか見えないのだ。
< 57 / 185 >

この作品をシェア

pagetop