【完】切ないよ、仇野君
試合は点の取り合いのまま進行して行く。
48対52と、たった2ゴール差の劣勢と言うには僅差のまま、ハーフタイムに突入する。
休憩もそこそこ、椿はメンバーと箱田先生を囲み、前半で観察した相手の弱点を突くような戦略を語っている。
「…………という訳だから、今回の作戦には泰ちゃんが不可欠。オフェンスもディフェンスもね。体力は大丈夫?」
「ここで『でけん』って言ったってやらすとやろ?」
汗を滲ませた額で尚爽やかに笑って見せた泰ちゃんに、椿も生意気な笑みを返す。
「さぁ、新生水高の快進撃といこうか。キャプテン、あれ、よろしく」
椿の不敵な笑みに、行雲キャプテンも楽しそうな表情を滲ませる。
ベストメンバーの五人が肩を組み、円陣を作ると、行雲キャプテンが今日一番の大きな声を張り上げた。
「ぶっ潰す!!」
「「「「イェッサァァ!」」」」
ドォォン、とフロアを強く片足で鳴らし、物騒な気合い入れを済ませた五人が、コートの中に戻って行く。
その後ろ姿の頼もしさを、私は上手い言葉に変換することが出来ない。
それ程に、何故だか、勝ちしか見えないのだ。